当初、ルシファーは他の天使たちとそう変わりなく、遥か昔は千里眼もテレポーテーションの能力も持っていなかったのですが、遥か古代のある日、その能力が開花したのです。いわゆる、覚醒です。その当時、ゼウスやその他の天使に千里眼の能力はなく、それらの能力はルシファーだけのものでした。(実のところ、今でも他の天使たちより能力がずば抜けています)ルシファーは千里眼の能力が現れただけでなく、気分的にも爽快になり、何事をも楽しむようになります。意識が自由になったことにより、以前よりも遥かに強く深く楽しんだのです。そして、その開花した能力で遊んでいたところ、ある日、ゼウスがそのいたずらに少しづつ怒り出し、不快感を示すようになったのです。
最初からゼウスが怒っていたわけではなく、ゼウスや他の天使たちはルシファーの変貌ぶりに最初は当惑し、驚き、理解に苦しみ、やがて、不快感を募らせていきます。そのように、当初は、ただ理解できずにいた、というくらいの状況だったのです。しかし、やがて、きっとルシファーは悪の心を持ってしまったのだろう、と誤解して考えるように至ります。これは実際のところ、誤解であったのです。ルシファーはただ遊んでいただけですので、そんなゼウスたちの不快感に気付きつつも、そんな誤解などそのうち解けるだろうと、気にせず遊びを続けました。ルシファーからすれば、その誤解を甘く見ていたのです。やがて、その誤解が敵対心に変化し、時々ルシファーとゼウスが接触する度に問題が生じるようになります。ルシファーの発言を、ゼウスが事あるごとに不快感をあらわに示すようになるのです。
表立って不快感を示しだしたゼウスや他の天使たちを見て、このままでは良くない、と思い始めました。特に深刻に捉えていなかったルシファーは、そうなっても尚、事態を甘く見ていました。そこで、積極的に誤解を解くほどでもなく、時間が解決してくれるだろう、と考えたのです。それは性格でもありました。自分が全く悪くないことに対して弁解しわびを入れたり誤解を解くなど、大天使として取るべき態度ではなかったのです。それは大天使によっても性格に違いがありますが、ルシファーはそのような性質でした。よって、少し距離を置こう、とルシファーは考えたのです。
結果、ルシファーは自分や自分を慕う天使たちと共にとある田園地方に引越しをし、特にその意図はなかったのですがその地方を治め始めたかのように他の人には見えました。ルシファーとゼウスの派閥はそれぞれ分断したかのようになり、しばらくはその状態で月日が流れました。ルシファーからすれば離れて暮らして平穏そのものでしたが、ゼウスの側はルシファーの動きを怪しみ、やがて、ルシファーはゼウスに敵対しているのではという妄想に取り憑かれるのです。そうして、戦争の一歩手前にまで事態は進展します。そこでもルシファーは何もせず、言い訳をせず、ただ自分の屋敷で暮らしていました。戦争の一歩手前になっても尚、ルシファーからすると、何も弁解することがない、という態度を貫いていたのです。